「あの頃」のコンテンポラリーダンス 〜2005年・日本の状況〜

2000年代 日本 のコンテンポラリーダンスブーム

コンテンポラリーダンスについて少し上の世代の方の話を聞くと、よく耳にするのが

「2000年代はブームだったから」
「あの頃は勢いがあって、世間からも注目されていた」

というようなフレーズです。

確かに2000年代、中でも2005年という年は、康本雅子さんが美術手帖の表紙を飾るなど、コンテンポラリーダンスブームの最高潮だったのかもしれません。しかし当時の私はまだ高校生だったので、コンテンポラリーダンスがどのくらい世間の注目を集めていたのか、いまいち実感がわきません。

その頃の私(白井愛咲)は…
クラシックバレエを習い、高校の創作ダンス部に所属。コンテンポラリーダンスの舞台はほとんど観に行かなかったが、コンドルズの公演がNHKで放送されたのを、VHSに録画して何度も見ていた。
※コンドルズの公演「JUPITER」がNHK芸術劇場で放送されたのは2005年6月

2005年・日本のコンテンポラリーダンスシーンとはどんな空気だったのか。

その一端を知るべく、当時の雑誌を取り寄せてみました。

ダンス・ダンス・ダンス(DDD)

まさしく2005年に創刊された雑誌、DDD(ダンスダンスダンス)。その創刊号=2005年9月号を入手しました。

DDD とは:

ダンスのある日常を提案する「ダンス・ライフスタイル誌」。
「ダンスをする」「ダンスを観る」、2つの切り口からダンスを「ファッション」「音楽」「アート」「スポーツ」「エンターテインメント」の他の5つのカルチャーと結びつけ、日常に「ダンスのある生活」を提案する総合ダンスカルチャー誌です。

DDD公式サイトより引用

2005年9月号の特集は「ダンスを観に行こう」。マシュー・ボーン、勅使河原三郎、金森穣、伊藤千枝 等の名前が並びます。

様々なアーティストの紹介・インタビューが数ページずつ展開されるほか、公演レビューオーディション&ワークショップ情報大学ダンス部の紹介など、かなりの情報量です。

今回はその中から、「全国400公演ガイド」のページを参照したいと思います。

ちなみに2019年のDDDも入手しました

当初は、2005年2019年の2冊を比較して記事を書こうと思っていたのですが……

厚さが全然違う!!

2005年9月号が 223ページ あるのに対して、2019年11月号はたったの 80ページ

よく見ると、大きさも違う

まぁ15年も続いていれば、雑誌の編集方針が大きく変わるのは当然でしょう。

とはいえ、その変遷には世間の状況や読者の興味が確実に影響しているはずなので、2019年版の薄さと小ささを目の当たりにして、少し寂しい気持ちになりました。

(2019年11月号の内容はここでは詳しく書きませんが、紙面のほとんどがエクササイズ系ダンスイベントの紹介と、ダンスウェアブランドの広告で占められていました。)

「全国400公演ガイド」から見る当時のコンテンポラリーダンス

気を取り直して、2005年9月号DDDの公演ガイドを見てみましょう。

7月~10月に行われる公演を、都道府県別に分け、12ページにわたって紹介しています。

それぞれの公演には「バレエ」「コンテ」「舞踏」「ミュ」「エンタ」「PA(パフォーマンス・アーツ)」など、独自のタグ付け・色分けがしてあります。(ジャンルの分け方・名付け方も興味深いです。)

まずはジャンルごとの数を数えてみました。

1公演に複数タグが付いている場合、2タグの場合は0.5公演分、など分割して計算

掲載されている330公演のうち、コンテ のタグが付いているのは64.5公演でした。

東京・9月の例

具体的な内容を見てみましょう。

9月に開催される東京都での公演のうち、コンテ のタグが付いていたのは以下の14公演でした。

  • 東京芸術見本市2005  1.~コンテンポラリーダンスの現在~ 2.~映像による日本のコンテンポラリーダンス~ 
    • ディレクター/志賀玲子 砂連尾理+寺田みさこ、BABY-Q、山下残 他 東京国際フォーラムB7-1
  • コンドルズ夏のダンス公演 日本縦断大頂上ツアー2005「TOP OF THE WORLD」
    • 出演/コンドルズ シアターアプル
  • インバル・ピント カンパニー「オイスター」
    • 演出/アヴシャロム・ポラック 振付/インバル・ピント 世田谷パブリックシアター
  • 新国立劇場コンテンポラリーダンス ダンスプラネット no.18「舞姫と牧神達の午後」
    • 出演/パク・ユースン&キム・ソンヨン 他 新国立劇場小劇場
  • 吾妻橋ダンスクロッシング
    • 企画:桜井圭介 出演/康本雅子、ボクデス、黒田育世 他 アサヒアートスクエア
  • DANCE COMPANY BABY-Q「ALARM!-zero hour edition-」
    • 出演/川崎麻生、豊田奈千甫、樋口洋子、上月一臣、ミンゴ、山本泰輔、他 シアタートラム
  • Я ichal Dance Art Museum ~舞台フレームの中で起こるアートなダンス~
    • 振付・演出/橘ちあ 出演/宇野あかり、片寄広志、金井久美、児玉麗奈、他 吉祥寺シアター
  • フィジカル・シアター・シリーズⅡ Dance at the PARKING「Double Vision」
    • 構成・演出/上島雪夫 出演/上島雪夫、青木裕記、辻本知彦、加賀谷香、他 オリベホール(六本木)
  • シアター21フェス「vol.53」
    • セッションハウス
  • マドモアゼル・シネマ公演 2005 旅するダンス「東京タンゴ」
    • 出演/マドモアゼル・シネマ、野和田恵里花、村雲敦子、窪田玲、相原美紀、他 セッションハウス
  • 2005リンゴ企画~あなたの気持ち 決して忘れません~「木佐貫邦子と気になるX」
    • 出演/木佐貫邦子、今井朋彦(文学座)セッションハウス
  • パパ・タラフマラ「三人姉妹」
    • 出演/白井さち子、関口満紀枝、あらた真生 スタジオSAI
  • 洞察ノ放ツ衝動~vol.6
    • 出演/奥田純子、松本大樹、野和田恵里花、若松智子、JOU、伊藤虹 他 神楽坂die pratze
  • 語りとダンスのコラボレーション「恋」
    • 出演/草薙幸二郎、石田久美子、伊藤沙織、折井洋人、南和恵、凛 他 乃木坂シアターコレド

(DDD 2005年9月号 p209より 公演名・出演者・会場の部分のみ引用 太字・装飾は筆者)

もちろん「DDD」に収録されていない公演も多く存在するでしょう。これらのデータが全てではありません。

それでも、これらの公演がたった1ヶ月の間に開催されていたことを想像すると、現在との感覚の違いが少しは実感できます。

数が多いこともそうですし、リストに載っている会場名や出演者からは、その半数以上が中規模〜大規模の公演だったことが推察できます。

単純な比較はできませんが、参考としてWebサイト「CoRich!舞台芸」での【2019年9月/東京都/ジャンル:舞踊・バレエ】での検索結果をリンクしておきます。>>検索結果 (※コンテンポラリーダンス以外のジャンルが多く含まれます)

「あの頃」の知らなさを、知る

大学卒業以降、10年間コンテンポラリーダンスに関わる中で、何度も考えたことがあります。

コンテンポラリーダンスのアーティストの紹介やインタビューを読めるメディアがあればいいのに

公演情報やオーディション・ワークショップ情報の見やすい一覧があればいいのに

しかし、私が知らなかっただけで、これらは過去にあったのです。
それも、プロの出版社によるクオリティの高いものが。

DDD 2005年9月号が届いた時、ずっしりと重くて大きな雑誌のページの半分以上がコンテンポラリーダンス関連だということに、正直驚きました。こんな雑誌が創刊されるほどの熱量だったとは、話に聞くだけでは実感できませんでした。

そして、そのようなクオリティ、ボリュームをもってコンテンポラリーダンスを取り上げる雑誌やメディアが 今の日本には無い という事実について、データや紙面を実際に見ることで、より冷静に考えられるようになった気がします。

「ないものは作れば良い」とはよく言いますが、はじめから無かったのと、あったけど無くなった のでは、状況のもつ意味が違ってきます。

「昔はよかった」などと言うためではなく、現在の状況をより明確に把握するために、具体的な情報に触れられたことは大きかったです。

たった10年・20年前のことでも、私にとっては “歴史” なのだとわかりました。なんとなく “思い出” として語られがちな「あの頃のコンテンポラリーダンス」を、“歴史”として現在からの距離を踏まえながら読み解く視点を持ちたいです。

この記事は、ダンスを外から見つめる・語る [第1回] に関連して書かれた個別レポートです。
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この記事を書いた人

振付家、ダンサー。立教大学映像身体学科を2010年に卒業。現在は主に2人組ダンスユニット「アグネス吉井」として活動。街を歩き、外で踊り、短い映像を数多くSNS(@aguyoshi)に投稿している。