公開勉強会「コロナ禍のダンス作品制作術」

〜オンラインにおける信頼の築き方〜

ダンス井戸端会議のメンバーでもある、内山茜さんが最近制作・公開された作品『Contactless』を題材に、コロナ禍でのダンス作品制作を通して得た気づきを共有する公開勉強会をオンライン開催しました。今回はその内容をアーカイブレポートとして、こちらに掲載しております。

日時:2020年11月13日(金)20:00-21:00【終了】
開催方法:Youtube Live
料金:リアルタイム視聴は無料
スピーカー:内山茜(舞踊家/振付)、臼杵遥志(演出家/俳優)
進行:秋山きらら(コーディネーター )

[令和2年度活動継続・技能向上等支援事業費補助金]を得て制作された、内山茜・作の身体表現×VR映像作品『Contactless』について、そのオンラインでの制作過程と完成作品をご紹介しながら、ダンス作品とオンラインを絡めた制作手法についてのディスカッションを行いました。
他分野ではオンラインでの実践が多数行われているものの、身体が深く関わってくる舞台芸術表現においては、オンラインの可能性を見いだせない方も多いのではないでしょうか。実際に初対面の出演者含め、全リハーサルをオンラインで行った制作過程を振り返りつつ、「信頼の築き方」をキーワードに、内山(企画・振付)と臼杵(出演)の実際のエピソードを聞き出しながら、今後オンライン手法を検討するヒントとなればと思います。

秋山(進行):『Contactless』のオンラインでの制作過程を見させていただいたのですが、実際やってみるととても面白いなと思い、今回の公開勉強会とレポーティングをセットでちゃんと振り返った方がいいのではと今回の会の実現に至りました。
企画部分を内山さんにご紹介いただいて、その後今回出演者された臼杵さんより感想や今後のお話しをしていただき、その内容を題材にしつつ後半の時間では、
・オンラインって結局良いの悪いの?
・今後どうなっていくんだろう
・今後どっちを選択すべきなのか
・オンラインにどういったことまでは可能なのか

ということをディスカッションしていきたいと思います。

内山(舞踊家/振付):ご紹介いただきました内山茜と申します。自己紹介からさせていただきます。
舞踊家/俳優/演出/振付として活動しており、最近は映像を作ったりもしています。Youtubeにヨガの動画をあげたりだとか映像編集の仕事もしています。

また、2018年に第一子を出産しまして、そこから子育てと創作の両立のために何ができるかの実践を行っています。最終学歴としては、立教大学現代心理学研究科映像身体学専攻博士前期課程を修了。人肌くらげという身体表現をやっているチームの代表をしています。

スキルと専門は、舞踊家/俳優と名乗らせてもらっています。そこから付随して演出/振付したりだとか、2020年からは映像作家としても活動しています。

今回、この公開勉強会の題材ともなっている身体表現×VR作品『Contactless』の制作プロセスを実践するにあたって、私のライフイベントとも密接に関わっているのでその話もさせていただきます。

2015年〜2018年は大学院生として研究もしつつ、ヨガインストラクター業を並行してやっていました。2018年5月よりインストラクターを休止しそのまま長い産休に入って、同年11月に出産しています。フリーランスなので自分で決めるのですが2020年3月まで育休としていまして、それより動画編集をメインに仕事復帰をしていて、webサイト制作なども含めてやっています。

次に、『Contactless』の企画書をお見せします

コンセプトとして「Covid-19の蔓延に伴う新たな観劇形態の模索」とあげています。
私が経験した範囲内の話をすると、今までやってた稽古形態は長時間・長期間・対面で行うことが多かった。またCovid-19の感染拡大防止のために、今年は公演を中止せざるをえなくなったり、稽古でも密接に関われなかったり、フェイスシールドしなくてはいけなかったり。そういった活動制限を余儀なくされたということがあったかと思います。

そこで、ではもっと別の稽古形式や作品発表の手段はないのかなと考えました。やっぱり私も舞台芸術出身の人間なので、心の片隅に「やっぱり生(ナマ)じゃなきゃ」という気持ちがあったりするんですが、それだけでは淘汰されていってしまうんだろうなという危機感も覚えています。そういったことや、出産・育児などを考えるとあまり舞台の方に時間を割けないなという現実問題もあり、創作したいという気持ちとそれらの現状をどうあいだを取っていこうかということを考えて今回の創作のプロセスを踏むことになりました。

作品の内容については、VRの360度の映像を撮るということと、身体パフォーマンスを掛け合わせた7分程度の作品となりました。特徴は、発話や他の出演者に触れない振付でパフォーマンスを撮影したところです。Covid-19の感染拡大防止に対応した新しい創作の形として、こういった制限を課して行いました。

なぜVRを使ったかと言いますと、今まで【客席⇆舞台】という構造に対して疑問に思っていた節があり、もう少し舞台表現とか身体芸術に手軽にアクセスできる手段があると良いなと思っていました。ただ、普通の映像と身体パフォーマンスって既に沢山の作品がありあまり新しさがない。そこでせっかくだったらVRの機材もあるし、VRと身体パフォーマンスを掛け合わせたら、もっといろんな人がアクセスして楽しめるような身体表現の作品ができるのではと思いこの作品をつくりました。

これまでの稽古は、稽古場にみんなが集まってきてそこで稽古をするというのが主流だったと思います。三密が発生しやすい状況を避けるために、新しい稽古形態をやったらいいのではと思いまして、制作に関わる会議や稽古を全てオンライン化しました。

ダンサーの人は、コンタクトインプロビゼーションなど身体的接触の即興から作品をつくっていくこともあると思うのですが、それとはまた違った方法として「言葉」を使いました。全て言葉で指示を出して、言葉でコミュニケーションを取りながらそれをベースに振付をつくっていくというやり方を採用しました。

秋山:私から少し補足させていただくと、内山さんは「オンラインでこれだけできるんだ!」ということをやられていて、その一つが、出演者も今回募集をかけてオンライン稽古で初対面という状況で行われていたことです。またもう一つが、オンライン稽古以外にもSlack上で創作に関するやりとりがされていていました。また、オンライン稽古そのものも3回×4時間という短いスパンでやっていて、普通の舞台芸術の現場からするとすごくスマートに本番まで駆け抜けてらっしゃいました。
では、それを経験してみてどうだったのかということを出演者の1人でもあった臼杵遥志さんからお願いします。

臼杵(演出家/俳優):私はアーティストと教育者という二足の草鞋でやっていまして、このあいだ生徒の1人から「うーんとね、準備運動みたいだった!」と感想を言われたんですね。おそらく映像の最初の場面を指しているのですが、前半では、後半で行われるダンス的ムーブメントを分解して動いていて、それは踊る私にとっても準備運動部分はあるし、視聴している観客にとっても、このあと提示されるダンスを見るための助走タイムとしても準備運動的時間でもあるので、意外と言い得て妙だなと納得した。そんなことがありました。

改めて、臼杵遥志と申します。94年生まれ、演出家/俳優/劇作家として活動しており、ヨハクノートという劇団で代表をつとめています。もう一つの顔として教育者として活動をしています。花まる学習会という塾で年中〜中学3年生までの授業を担当しており、いわゆる勉強も教えますし、声優・落語家・芸人・舞台俳優の方々と一緒に表現ワークショップをやったりもしています。

今回の主題である「オンラインでの創作/オンライン作品」へのスタンスですが、一言でいえば好奇心旺盛な慎重派。新し物好きなので興味は常に持っているのですが、自分がオンライン作品を作るということに関してはちょっと慎重なスタンスです。オンライン授業も結構早めの段階からやってはいるので、オンラインの向き不向きも分かった上で、じゃあ自分がオンラインで作品をつくるか?と言われるとあんまりピンと来ないなぁと思って動いていませんでした。

自粛期間中に観客としてみた作品に関しても、演者同士もオンライン、それを見るお客さんもオンラインという作品は、その構造をかなり上手く物語に落とし込んでいる場合を除き、個人的にはしっくりとこず、面白いと感じられずにいました。

そこで今回、内山さんからVRの作品を完全オンライン稽古で制作するという話を聞いて、稽古期間がオンライン、本番は実際に同じ空間で踊る、お客さんが体験するのはVR映像というそれぞれ違うアプローチで行われているのが面白いなぁと思いました。どういう風に自分が感じるんだろうか、どういう風にお客さんに届くんだろかということを知りたくて今回参加した次第です。

それで実際体験してみて、面白かったんですよ。言葉を元にして動きをつくって、またその動きを見て言葉を生み出してみたいな、言葉と身体を意図的に切り離して振付をしていくというやり方をしていたので。所謂コンタクトインプロのように、身体と身体を動かして振りをつくっていくというやり方とは全く違ったので、それが今回はとても良い方向に働いたと思っています。作品のコンセプト自体が「身体と言語を切り離したところに何が生まれるのか」の探究だったので、非常にマッチしていた。もう一つメリットに感じたのが、作品つくっているあいだに他の共演者の方との意見交換の場というものが多かったことです。1人踊るのをみんなで見て、それについてみんなで話しましょうとか、3人同時に踊ってもらって「はい、じゃあ今どうでしたか?」とか。常に全員が踊る/見る/話すというポジションを取っていたので、あまりこの人喋ってないなということが起こりにくく、全員がすごくフラットに参加できたと思っています。あとは「なんとなくこんな感じ!」というのが伝えにくい分、自分の身体に起こった出来事をどうにかして言葉にしようと頑張りました。なので、普段の演劇の創作では見つけられなかった自分の身体感覚に出会う機会になり、非常に自分の中の哲学的時間を耕すのにいい機会だったなぁと感じました。

おまけですが、時間を拘束されないので直前直後の時間も自由に使えるし、稽古が平日午前中などに設定されていたのですごく参加しやすかったです。交通費と稽古場代がかからないというのもいいところですね。

デメリットとしては、ぶっつけ本番だったというのが正直なところです。自分の動きはしっかりと練ったものを持っていけたんですが、共演者と同じ空間にいた時に意識してもしなくても影響を受けてしまうし、今回の空間は全面鏡貼りで映像プロジェクションもされていたので、そういった場慣れがあまりできないままにとにかく必死で踊るままに撮影が終わってしまった感は否めないなと。

デメリットではないのですが、VR作品というのがお客さんから見てどう見えるのかということをあまりイメージできないままでやっていたので、まだまだ勉強不足だなと思っているところです。

結論、オンライン作品は取捨選択を迫られると思います。最初にも話した通り、稽古期間/本番/お客さんが体験する時間という3フェーズがあって、この中のどこにオンラインの手法を持ち込むのかによって話が全然変わってくるだろうなと。Covid-19の感染拡大防止の手段としてオンラインを用いるのか、そもそも創作したり発表したり見たりということにオンラインを用いるのか、あるいは代替の方法としてオンラインでやるのか。この三択もそうですし、「コンセプトが面白い」ということと「(コンセプトを知らなくても)ひと目見て面白い」ということをどうやって両立するかということは、オンラインの有無に関わらずだと思いますが特に今回は考えたことでした。

一番大事なことである、信頼のつくりかた・築きかたみたいな話でも重要になってくると思うのですが、こういうある種不自由だったり制限のある状況を面白がっていることが前提にないと、面白いものをつくるのは難しいのではないかと思います。まずスタートは面白がるところだという風に、少し精神論ぽくもなってしまうのですが、個人的にはやはりそう思っています。

秋山:ここから3人で意見交換をしていきたいのですが、臼杵くんの最後のスライドにもあった「取捨選択を迫られる」というのは本当にそうですよね。私は、いざオンライン稽古に参加してみると、「全然こういうことできるな!」と実感したりいろいろな感想を持ちました。その中で一番難しいところであり、作品の質に関わってくることで言うと「オンライン上で信頼をどう築くか」ということだと思うのですが、内山さん今回いかがでしたか?

内山:とても気を付けていたことがいくつかあります。最初に、契約書を結ぶことをしました。当たり前のことかもしれませんが、私がこれまで参加したもので契約書を結んだことがほぼなく、契約書を結ぶということ自体、業界的に意識が薄いのではとも思っています。特に今回は、オンラインで創作するということで途中でバックレれることも簡単にできてしまうので心配もあったのですが、契約書も結んでいるということで、(作り手である)私のことも守ってくれたし、出演者の皆さんのことも守ってくれたと思います。オンラインでやる上では、たとえすごく低い金額でも契約書を結ぶことが重要だと思います。

また、今回の稽古は稽古参加料を出してます。業務委託契約で、都の最低賃金を参考にして稽古と本番を含めて実働時間に対する賃金と、交通費なども出しています。

三つ目は、【演出-出演者】の関係が支配と被支配の構造になりやすいと思っていて、演出は全てを決めていくのでなぜか偉いと勘違いしてしまうパターンがありますよね。その環境を作り出さないために、意識的に力関係ができないようにしていました。たとえば、全員に発言を促すとかもそうですし、稽古の時に敬語を使うとか、小さなことから意識して支配関係のようにならないように気を付けていました。参加されている方が、距離をとられているなぁとか感じたかも分からないですが。

秋山:このプロジェクトは、出演者でなくてもオンライン稽古ややりとりを覗いたり参加していいよと、内山さんがオープンにやられていたこともあって、私は今回全部の回に参加して並走させてくださいという制作未満のような立ち位置で参加させていただきました。これまでの話でもあった通り内山さんはきちっきちっと進行されていくので、初対面同士の出演者の皆さんがオンライン上で打ち解けづらいだろうなという雰囲気も感じて、横からチャチャを入れていくようなことを意識してやっていました。そういうことが役割分担としてできると、いいのかなぁとも思いました。オンラインは目的に向かって進めるということがやりやすくて余白がなくなりやすいので、途中途中に感想を挟んだりということをやってみたりしていました。

臼杵:自分が(演劇出身者として)異業種の人間であるということを自覚していたこともあり、共演者のダンサーを尊敬して信じることはそんなにハードルは高くなかったです。あと内山さんは本当に、敬語で話そうとか(出演者に)平等に話してもらおうときちっとやられていた記憶があります。稽古の後半で作品の世界観が固まってきたような段階で、「私のイメージこんななんだよね」というのをお互い言い合う時間があったのですが、参考のURLを貼ったり写真を見せあったりして、その時間が単純に面白かったし、お互いの素の部分というか考えていることに触れられた気がしました。今回のオンライン稽古は「はじめまして。では動いてみましょう!」というようにスッと創作に入っていった感じでしたが、自分がオンラインで演出をするときは、アイスブレイク的な時間でお互いを知る時間というのをかなりとるだろうなと考えていました。

内山:なぜ短期間で作品を仕上げようと思ったかというといろいろな理由がありまして。これまでの制作の長さに対するアンチテーゼをしたいというがまず一つ。短時間・短期間でいけるやろ、というのを一回実践してみたかったということです。あと、ジャズ(音楽)のリハーサルの話を参考にしています。私のパートナーはジャズをやっているんですが、本当に2-3回しかリハーサルをせずに本番をするんですよね。子供ができて、自分の時間が限られていると思った時にこれまでどおりのやり方で作品制作をしていたら、どちらも中途半端になることが目に見えていたので、そんなにジャズが短い期間でライブができるならこっちもできるだろと思って実践してみました(笑)。

秋山:音楽はスコアやコードを共有して、個人練で仕上げてきたものを数回のリハで合わせるということができるので短期間できて。演劇やダンスはその仕組みができづらいの、私も常々コスパが悪い表現ジャンルだなと思っていますが。

内山:なので、この作品のデメリットをあげるとしたら、まったく踊ったことのない人が参加するのはすごく難しかったろうなと思いますね。

秋山:ダンサーの力量に頼らざるを得ないというか、力量が高い方が集まったので作品としては成り立ったけれども、グルーブ感というかリアルで撮影するに当たっての空気感をつくるのはオンラインでは難しかったという振り返りですよね。

内山:場に慣れる、空間に慣れることってすごいしんどいんですよね。だから通例の小屋入り(舞台での稽古)の期間は1-2週間あったりするんだろうなと思いますし。実は、それを少しでも緩和させる目的で、みんなでイメージの共有をすることが役に立つかなと思い、後半のオンライン稽古では画面共有をしたりディスカッションをしたりしていました。でもいくらイメージをみんなで共有していても、やっぱり実際の場の空気には勝てないなというのは思いました。

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